中小企業によるM&Aの手法や手順について

M&Aの基礎知識


中小企業を経営していて、年齢的にもそろそろ引退をしたいが、後継者がいない。

中小企業もM&Aができると聞いているが、あまりよく分からない。

このような疑問に、法人の運営サポートを行っている行政書士の私がお答えします。


なお、この記事は、経済産業省の「中小M&Aガイドライン」や「中小M&Aハンドブック」(経済産業省サイトより)を参考にしています。

M&Aについて

2025年問題とM&A

2025年には、団塊の世代(戦後の1947~1949年に生まれた方たち)が75歳以上となるため、後期高齢者の人口が全人口の約18%となります。

このような超高齢社会の中、雇用や医療、福祉といったさまざまな分野へ多大な影響を及ぼすことが予想されています。

これを2025年問題といいますが、2025年はもう目の前まで来ています。


中小企業・小規模事業者(以下、中小企業といいます。)の経営者の高齢化も進んでおり、2025年までに約245万人が70歳を超え、約半数の127万人が後継者未定というデータもあります(経済産業省の資料より)。

こうした後継者未定の中小企業の事業承継の一手法として、M&Aがあります。

M&Aとは

M&Aは、合併と買収(Mergers and Acquisitions)の略称ですが、広い意味で、売り手と買い手の間での事業の引継ぎのことをいいます。

売り手は、M&Aを行うことによって、事業の継承や、債務の整理が実現できます。

買い手がM&Aを行うのは、投資目的の場合もありますが、それ以外では、事業の拡大や異業種への参入を早期に行うという目的があります。


それでは、中小企業は、どのような方法でM&Aを実現できるでしょうか。

中小企業を対象とするM&A(以下、中小 M&Aといいます。)の手法について、ご説明します。

中小M&Aの手法

M&A手法のいろいろ


M&A で用いられる手法は、さまざまありますし、分類の仕方もさまざまです。

中小M&Aで用いられるのが多いのは、株式譲渡と事業譲渡です。

違いは、株式の取引か、資産の取引かです。

株式の取引

株式を取引することで行われるM&A には、株式譲渡や第三者割当増資などがあります。

株式譲渡

株式譲渡は、売り手の株主が保有している発行済株式を買い手が取得することで、売り手の会社の経営権を獲得し、買い手が売り手を子会社とする手法です。

売り手の株主や経営者は変わりますが、従業員等の会社内部の関係や、会社の債権債務、第三者との契約、許認可等は原則存続することができます。

手続きも他の方法に比べて相対的に簡便であるとされるため、中小M&Aで最も利用されている手法です。

第三者割当増資

第三者割当増資についても紹介しておきます。

第三者割当増資とは、既存の株主以外の特定の第三者に新株を割り当てて発行することです。

株式を発行した会社は、この増資によって、資金を調達し、資本を増強することが可能となります。

M&Aの観点では、売り手が発行する株式の一定割合を買い手が取得することにより、買い手はその経営権を取得します。

取得する株式の数や割合によっては、買い手が売り手の議決権を過半数や3分の2以上取得することになります。

資産の取引

資産を取引することで行われるM&A の一つに事業譲渡があります。

中小M&Aで行われるケースが多いものです。

事業譲渡

事業譲渡とは、売り手の事業の全部又は一部を、買い手に譲渡する手法です。

買い手は、売り手から譲渡された事業の経営権を取得します。

売り手は事業の一部を手元に置いておくことが可能であり、買い手は特定の事業部門のみを買収できるため、双方にとって効率的な手法といえます。

一方で、債権債務、契約関係、雇用関係、許認可を、一つ一つ切り替えていかなければならないことから、手続きが煩雑になり易いというデメリットがあります。

次に、M&Aの手順を、作成する契約書を中心にみていきます。

M&Aの手順

MandA 各種契約書と順番


M&Aを検討しようと思ったら、まず、身近な専門家に相談します。

商工団体、顧問税理士、金融機関、中小企業診断士、公認会計士、弁護士、M&A 専門業者、事業引継ぎ支援センターといったところです。


買い手の候補が見つかったら、秘密保持契約を結びます。

秘密保持契約書

秘密保持を確約するために締結する契約が、秘密保持契約です。

NDA(Non Disclosure Agreement)や CA(Confidential Agreement)とも言われます。

秘密保持契約を締結した後に、売り手・買い手の双方が具体的な情報開示を行います。


秘密保持契約を結んだら、バリュエーション(企業価値の評価)、マッチング(買い手の選定)を行い、交渉に向けた準備を進めます。

基本合意書

売り手が、M&Aの交渉相手となる買い手を決定したとき、基本合意書が交わされます。

基本合意書とは、その時点における売り手・買い手の双方の了解事項を確認する目的で記載した書面のことです。

LOI(Letter Of Intent)や MOU(Memorandum Of Understanding)とも言われます。

基本合意書には基本的には法的拘束力はありませんが、買い手の独占的交渉権や(改めての詳細な)秘密保持義務等の記載があれば、それについては通常、法的拘束力を認めます。


基本合意書を交わした後、買い手は、デューデリジェンス(DD:Due Diligence)を行います。

DDには、法務DD、財務DD、許認可DDなどがあり、それぞれ、弁護士・公認会計士・行政書士などの専門家が、M&Aのための必要な、売り手の実態調査を行います。

費用(専門家への報酬等)を考慮し、必要なDDだけ行う場合もあります。

最終契約書

デュー・ディリジェンス(DD)で発見された点や基本合意で留保していた事項について再交渉を行い、最終的な契約を締結します。

最終契約で取り決める主な内容はこちらです。

・譲渡の対象、時期、対価、支払時期

・経営者、役職員の処遇

・表明保証条項 (仮に違反した場合にどのような補償等を求められているか)

・競業避止義務(譲渡後に競合する事業を行うことがどの程度禁止されているか)


そして、必要なことを全て行ったら、最終段階のクロージングを迎え、株式等の譲渡や譲渡対価の支払を行います。

まとめ

今回は、中小企業を対象としたM&Aについて書きました。

ポイントです。

・M&Aは、後継者未定の中小企業の事業承継の一手法となる。

・中小企業が行う主なM&Aの手法は、株式譲渡と事業譲渡。

・秘密保持契約書→基本合意書→最終契約書といった順番で契約を交わし、その間に念入りなデュー・ディリジェンス(DD)を行い、クロージングに向かう。


M&Aに関心をもったら、身近な士業等専門家や事業引継ぎ支援センターなどに相談するところから始めるのがよいでしょう。