相続税の基礎知識。相続税を支払う基準や、対象となる財産について

遺言書を作ろうと自分の財産の一覧を作り始めたが、相続税はどうなるのだろう?

どういった財産が相続税の対象になるんだろう?

そのような疑問に、遺言書作成や相続手続きのサポートをする行政書士の私が、相続税の概略をご説明します。

相続税について

相続税の概要を説明します

相続税は、遺産を相続した人が支払う税金です。
遺産に対する税金なので、全部でどれくらい遺産があるのかの調査が必要です。

また、相続税は、遺産が一定の額より少ない場合は支払わなくてもいいことになっています。

相続税を支払う基準

 3,000万円 +(600万円 × 法定相続人の数)

亡くなった方の遺産が、上の計算の額(「基礎控除額」)よりも多い場合だけ、相続税を支払います。

たとえば、夫が亡くなり、妻と子供2人の合計3人が法定相続人である場合は、
 3,000万円 +(600万円 × 3人)=4,800万円で、
これよりも多く夫に遺産があったら相続税を支払います。

また、相続税を計算するときの「法定相続人」は、民法で定められている相続人のことです。

相続を放棄する人がでた場合でも、その人の数も「法定相続人」の数に含めて計算します。

また、「法定相続人」に加えて計算していい養子の数には制限があるのでご注意ください。
・実子がいる場合  ― 養子の数は1人まで
・実子がいない場合 ― 養子の数は2人まで


次に、どれくらいの方たちが課税対象になっているのかを参考までに見てみましょう。

相続税の課税対象

全国で2018年に亡くなられた方のうち、相続税の課税対象となったのは、全体の8.5 %でした。
100人のうちの9人という計算です。

この割合は、都道府県でかなり状況が違うようです。
上位三位は次のようになっています。

東京都  16.7 %
愛知県  14.3 %
神奈川県 13.3 %

東京都では、亡くなった方100人のうちの17人が課税対象であったという計算です。
全国平均(100人のうちの9人)の約2倍です。

ちなみに、2014年以前の制度では、遺産に対する「基礎控除額」は、
 5,000万円 +(1,000万円 × 法定相続人の数)
といったように、今の制度より額が大きかったため、相続税の課税対象者は、4.3 %(2013年)、4.2 %(2012年)とかなり少ない状況でした。

(国税庁HP 報道発表 ほか参照)


次に、相続税の対象となる財産とその額の決め方についてご説明します。

相続税の対象となる財産とその額の決め方

特例を受けて相続税が安くなるなど

相続税の対象となる財産

亡くなった時点で所有していた財産

土地、建物、有価証券(株式や公社債など)、預貯金、現金、その他、金額を見積もることのできる全ての財産。

家族名義で作った銀行口座の預貯金なども実際は亡くなった方の財産であれば含みます。


生命保険金、退職金

亡くなることで支払われる生命保険金(死亡保険金)や退職金(死亡退職金)は「みなし相続財産」といわれ、相続税の対象になります。

しかし、生命保険金(死亡保険金)、退職金(死亡退職金)は、それぞれ「500万円 × 法定相続人の数」まで、相続税はかかりません(非課税)。

これより多い額が、相続税の対象として加算されます。


亡くなる前の3年以内に渡した財産(「暦年課税」適用財産)

亡くなった方から、生前に財産をもらうことを生前贈与といい、贈与にかかる税金を贈与税といいます。

亡くなる前の3年以内の譲渡については相続税の対象となります。

受け取った人の1人あたり年間110万円までの贈与であれば、贈与税は支払わなくていいとなっています(「暦年課税」の基礎控除)。

しかし、この制度も、亡くなる前の3年以内の譲渡については適用されず、贈与した分が相続税の対象になります。


「相続時精算課税」の手続きをして受け取っていた贈与財産

生前贈与で財産を受け取った人(相続人となる人)が「相続時精算課税」の手続きをとっていた場合は、受け取った財産の2,500万円までは贈与税がかかりません。

その財産が2,500万円を超えている場合は、超えた分の20 %だけの贈与税を支払います。

そして、相続が始まったら、生前贈与で受け取っていた財産を相続の財産に含めて相続税の計算をします。

支払った贈与税は、相続税から引くことができます。


遺産の一覧を作成して、相続税の対象となる財産の額(課税価格)を出したら、今度は、その額から差し引けるものがあります。

相続税の課税価格から差し引かれるもの

亡くなった方の債務

借入金、未払いの税金、未払いの医療費など。

墓地購入の未払金など、相続税が非課税扱いとなっているものに関する費用は、この債務に含まれません。
(墓地や墓石、仏壇、仏具、神を祭る道具など日常礼拝をしている物は、非課税扱いです。)

葬式費用

亡くなった方の通夜や葬式で相続人が負担した葬式費用。
お寺への支払い、葬儀社などへの支払い、お通夜の費用などです。

初七日や四十九日などの法会の費用、香典返戻費用などは、葬式費用に含められないのでご注意ください。

小規模宅地等の特例

亡くなった方の自宅の敷地や事業用店舗の敷地などを、一定の要件を満たす人が相続した場合、相続税の課税価格を減額できる特例があります。

利用区分と面積、減額される率は以下のようになっています。

利用区分面積の上限減額割合
特定居住用宅地等330 ㎡80 %
特定事業用宅地等400 ㎡80 %
貸付事業用宅地等200 ㎡50 %


たとえば、特定居住用宅地等の特例を使うと、亡くなった方の自宅の330㎡までの土地の評価額の 80 %が減額できます。

自宅を相続して、この特例が使える人の要件

①亡くなった方の配偶者の場合
 特に要件なく特例が使えます。

②亡くなった方と同居していた親族の場合
 ・相続税の申告期限(亡くなった後10か月)まで引き続きその家屋に居住していること
 ・その宅地等を相続税の申告期限まで、保有していること

③亡くなった方と同居していない親族の場合
 ・亡くなった方に配偶者がおらず、同居していた親族もいないこと
 ・亡くなる3年前から今日まで、自己または自己の配偶者や親族等の持ち家に住んだことがないこと
 (通称「家なき子」の特例といわれる所以です)
 ・その宅地等を相続税の申告期限まで保有していること

ここでは、代表的な特定居住用宅地等についてご説明しました。
他の利用区分(特定事業用宅地等)についても、要件があります。
詳細は、国税庁HP をご参照ください。


以上のようにして、相続税の課税価格の合計額を算出します。
この額より「基礎控除額」が多ければ、相続税を支払うことになります。

支払うことになった場合は、次に、相続人ごとの相続税額を算出します。
ここでも、減額したり、加算されたりする制度がありますので、以下でご説明します。

相続税が足される人、減らせる人

相続財産の減額や相続税の減額をする仕組みがあります

相続税が足される人

孫や嫁など、一親等の血族や配偶者「以外」の方が相続した場合は、相続税が2割加算されます。

代襲相続によって相続することになった孫は、これには該当しません。

相続税を減らせる人

配偶者や未成年、障害のある方には、相続税が減額される制度があります。

配偶者

亡くなった方の配偶者が得た遺産の額が
① 1億6,000万円までか、
② 配偶者の法定相続分相当額までであれば、
配偶者に相続税はかかりません。


未成年者

亡くなった方から財産をもらったときに未成年であった相続人は、
 (20歳-相続開始時の年齢)× 10万円
を相続税から引くことができます。


障害のある方

亡くなった方から財産をもらったときに障害者であった相続人は、
 (85歳-相続開始時の年齢)× 10万円
を相続税から引くことができます。

まとめ

今回は、相続税の基本的なことについてご説明しました。
ポイントをまとめます。

・相続税を支払うのは、「3,000万円 +(600万円 × 法定相続人の数)」より遺産が多い場合。

・土地や建物、預貯金などが相続税の対象になるが、控除できるもの、減額できる特例もある。


ご自身の財産は、相続税の課税対象になりそうでしょうか。

相続税の具体的な計算などは、最寄りの税務署や税理士の方にご相談ください。

遺言書の作成と併せて、備えが必要ですね。