自筆証書遺言の保管制度が始まってるらしいけど、注意点は?

元気なうちに遺言を作ろうと思っている。
いまは法務局が自筆証書遺言を保管してくれるらしいが、何に注意したらいい?
公正証書遺言の方がいいのだろうか?
そんな疑問に、遺言作成サポートのできる行政書士の私がお答えします。

遺言について

遺言書の準備

自筆証書遺言と公正証書遺言

代表的な遺言として、自筆証書遺言と公正証書遺言があげられます。

自筆証書遺言は、遺言をのこす本人(遺言者)が自筆で書くものです。
公正証書遺言は、遺言者の希望を聞いて、公証人が作成します。

2019年に民法が改正され、自筆証書遺言を法務局が預かる「自筆証書遺言書保管制度」が、2020年7月から始まりました。

この新しい制度の利点にはどういうものがあるでしょうか。

自筆証書遺言書保管制度の利点

見つけられない恐れ、改ざんされる恐れが減った

遺言者が遺言書を自分で保管していた場合、亡くなった後に誰にも見つけてもらえず、遺言書に書いた意思が誰にも伝わらない可能性がありました。

遺言者以外の人に内容が改ざんされる恐れもありました。

これらの点が、法務局が保管することで改善されます。


遺言が無効になる可能性が減った

自筆証書遺言書の保管申請をしたとき、法務局で遺言書の「形式の確認」をします。

そのため、署名がない、押印がない、といった理由で無効になってしまう可能性が減りました。


「検認」が不要に

これまでは、遺言者が亡くなった後に相続人が遺言書の「検認」の申請をしなければなりませんでした。

新しい制度を利用した場合、「検認」は不要となりました。

もちろん、法務局に保管しなければ、今も自筆証書遺言書の「検認」は必要です。

参考用に、「検認」の手続きについて、以下にご紹介しておきます。

1.家庭裁判所に遺言書の「検認」の申請をします <相続人>
 ↓
2.家庭裁判所で「検認」が行われます <相続人立ち合い(全員でなくともよい)>
(必要な書類)
 ・申立書
 ・遺言者の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本
 ・相続人全員の戸籍謄本
 ↓
3.「検認済証明書」の申請をします<相続人>
 ↓
4.遺言を執行します <遺言執行者>
「検認済証明書」をもって銀行で預貯金を下ろすなどの相続手続きを行います


「検認」が不要になり、手間も時間も節約できるようになったことは、大きな利点と思われます。

それでは、どのようにしたら法務局で自筆証書遺言を保管してもらえるのでしょうか。
その手順を説明します。

自筆証書遺言書保管制度の利用の仕方

自筆証書遺言書保管申請の手続き

保管申請の手順

遺言書を作成します <遺言者>
 ↓
法務局に保管申請の予約をします <遺言者>
 ↓
遺言書保管所に行って保管の申請をします <遺言者> ※代理人不可、付添人可
 必要書類
 ・遺言書
 ・保管申請書
 ・本籍の記載のある住民票の写し等
 ・本人確認書類(以下のいずれか)
  マイナンバーカード、運転免許証、運転経歴証明書、旅券、乗員手帳(ほか、在留カード、特別永住者証明書)
 ↓
保管証を受け取ります <遺言者>


遺言者が亡くなったあとは、「検認」はありませんが、「遺言書情報証明書」の交付申請が必要です。

亡くなった後の手順

「遺言書情報証明書」の交付を遺言書保管所に申請します <相続人>
必要書類
 ・遺言者の出生から現在までの戸籍謄本
 ・相続人全員の戸籍謄本
 ・相続人全員の住民票
 ↓
「遺言書情報証明書」交付の請求の予約をします
 ↓
「遺言書情報証明書」交付の請求をします
 ↓
「遺言書情報証明書」を受け取り(窓口か郵送)、相続手続をします


遺言者自身が規定にしたがって、遺言書保管所を選択します。

法務局の全ての支局が遺言書保管所になるわけではない点に、ご注意ください。
自筆証書遺言書保管制度の遺言書保管所一覧

遺言者本人が自筆証書遺言書の保管を申請する手続き、亡くなった後に相続人が証明書を受け取る手続き、どれも新しいやり方なので、事前の確認が必要です。(参照ください。法務局HP

自筆証書遺言と公正証書遺言はどちらがいいのか

自筆証書と公正証書どちらがいいか

関連する統計

2020年7月に自筆証書遺言の保管制度を利用した人数は約2,600人であったという統計が早速公表されています。

この数字で単純計算すると、1年で約31,200人がこの制度を利用する予想になります。

これまで自筆証書遺言の検認を行った件数と比較すると(下の表を参照)、今後、自筆証書遺言によって相続手続きを行う方が1.8倍も増えるという予測になります。

来年度の正しい統計結果に注目したいです。

 自筆証書遺言
(検認件数)
公正証書遺言
(作成件数)
2017年17,394110,191
2018年17,487110,471
2019年18,625113,137

上の表には参考までに公正証書遺言の作成件数も加えました。

公正証書遺言を作成される方が圧倒的に多く、自筆証書遺言の6倍になっています。

自筆証書遺言は、見つけられなかったり検認されなかったりした数が不明なため、正確な倍率は出ませんが、公正証書遺言の作成数が多いことの参考になると思います。

自筆証書遺言と公正証書遺言の相違点

自筆証書遺言(法務局へ保管する場合)と公正証書遺言の違いについてみてみましょう。

 自筆証書遺言
(法務局へ保管)
公正証書遺言
作成手数料0円財産の評価額による
例:財産価額3,000万超~5,000万円で29,000円から
保管法務局(遺言保管所)で保管
3,900円
公証役場で保管
0円
遺言者がやること・本人が遺言書を書く
・本人が申請に行かなければならない
・公証人に希望を伝えて遺言書を書いてもらう
・公証人に家などに来てもらうことができる(有料)
遺言書の確認ポイントのみ文章全体
遺言者の判断能力原則、確認しない確認する場合あり→死後の争いを防ぎます
保管後の手続き住所の変更を届け出る必要あり特になし
亡くなった後の通知2021年度から開始予定(希望した場合)なし

費用や目的を考えて、どちらの遺言を作成するのかを決めるのがよいでしょう。

亡くなった後の争いを防ぎたい場合は、一般的には、公証人のチェックが入る公正証書遺言を作成するのがよいと言われています。

公正証書遺言の作成の仕方については以下の記事が参考になります。

まとめ

今回は、法務局の自筆証書遺言書保管制度を中心に説明しました。

ポイントは以下のとおりです。

・自筆証書遺言書保管制度を使うと「検認」が不要で、手間も時間も節約できるようになったことが、大きな利点。

・自筆証書遺言書の保管申請や、亡くなった後の証明書の受取り、遺言書保管所の選択など、新しい手順に注意。

・自筆証書遺言にするか公正証書遺言にするかは、費用や目的を考えて決めるのがよいが、より紛争を防ぎやすいのは公正証書遺言といわれている。

元気なうちに遺言を作成することで、亡くなった後のご家族の手続きの簡素化や、争いの防止につながります。

制度や書類のこと、遺言の書き方などで分からないことがあれば、専門家に相談するなどして、遺言の準備を進めるのがよいでしょう。