親が認知症になる前に、知っておきたい後見人制度の基礎知識


親が認知症になった時に利用できる、後見人の制度があると聞いたけれど、どういう制度で、どのような手続きをするのだろう。

そんな方の疑問にお答えします。

終活や相続手続きのサポートを行っている行政書士の私が、分かりやすく解説します。

超高齢社会と認知症

超高齢社会と認知症

超高齢社会

全人口のうち、65歳以上の人口が占める割合が21%を超えた社会を「超高齢社会」といいます。

日本の人口は、2019年10月1日現在、1億2,616万7千人で、そのうち65歳以上の人口は3,588万人で全体の28.4%となっており、現在すでに「超高齢社会」になっています。

75歳以上の人口は1,849万人で全体の4.7%となりましたが、2065年には全体の25.5%、約3.9人に1人が75歳以上になると推計されています。

そして、認知症を発症している人は、65歳以上の人口のうち、2012年時点の推計で約462万人です。

認知症発症者の推計値は、2025年には730万人へ増加、つまり5年後には、65歳以上の5人に1人が認知症を発症するとされています。(厚生労働省老健局2019.6

認知症

認知症は、「成人になった後に、言語や知覚に関する脳の機能低下が起こり、日常生活や社会生活に支障をきたしている状態」のことをいいます。


「加齢によるもの忘れ」は、ヒントがあれば思い出すことができるものです。

本人に自覚はありますが、進行性はなく、また日常生活に支障をきたしません。


一方、「認知症によるもの忘れ」は、ヒントを与えても思い出すことができません。

本人に自覚はなく、その症状は進行することが多く、日常生活に支障をきたします。


認知症になると、不要な物を買ってしまったり、悪徳商法にひっかかったりと、金銭トラブルが増えるケースが多く報告されています。


親が認知症になったときのことに備えることが重要です。

後見制度は、認知症の方やその家族を支える一つの方法です。

後見制度について

後見契約をするなど

成年後見制度とは

「後見」とは、「後見人」に財産の管理や日常取引の代理等を行ってもらうことによって、認知症の患者など、保護を必要とする人(本人)を守る制度のことをいいます。

「後見人」は、本人の希望で決めておくことができる場合と、家庭裁判所によって選任される場合とがあります。


「成年後見制度」とは、認知症、知的障害その他の精神上の障害のため判断能力が不十分で、不動産や預貯金などのご自分の財産の管理や日常生活等に支障がある方々を、保護し支援する制度です。

「成年後見制度」の利用者は、2012年は約16万6千名でしたが、2017年には約21万名となり、5年で約4万4千名の増加がみられました。

利用する理由としては、認知症が最も多く、全体の約63.4%を占めています(最高裁判所「成年後見関係事件の概況(平成30年)」)。

※「未成年後見制度」というものもあります。
親権者の死亡などにより親権者が不在となった未成年者を法的に保護し、裁判所が後見人を選任して未成年者を保護する制度です。

リンク

「成年後見制度」には、「法定後見制度」と「任意後見制度」があります。

任意後見制度と法定後見制度について

「任意後見制度」は、本人が判断能力の十分あるうちに、契約によって後見人を選任する制度です。

「法定後見制度」は、本人の判断能力がすでに低下してしまった後、親族等の申し立てにより裁判所が後見人を選び、後見が開始する制度です。

「任意後見制度」と「法定後見制度」について、比較しながらそれぞれの内容をみてみましょう。

 任意後見制度法定後見制度(※)
概要

【本人の判断能力が十分ある場合】
判断能力が低下した後に備えて、任意後見人を定めて、任意後見契約を公正証書で結ぶ

【本人の判断能力がすでに低下してしまっている場合】
家庭裁判所への申し立てにより、後見人などが専任される
契約/申し立てをする人本人が任意後見人と契約を結ぶ本人、配偶者、四親等内の親族、検察官、市町村長等が家庭裁判所へ申し立てる
後見人になる人親族、専門職(弁護士、司法書士、社会福祉士、行政書士等)など親族、法律や福祉の専門家(弁護士、司法書士、社会福祉士、行政書士等)、福祉関係の法人など
後見人の仕事任意後見契約で決めた内容を行う

・財産の管理
 現金、預貯金、不動産、収入・支出、確定申告、納税など

・生活に関すること
 医療、施設への入所、介護、生活や療養看護などに関する契約など

・財産の管理
 (左に同じ)
・生活に関すること
 (左に同じ)
・行った職務の内容を家庭裁判所に報告
最高裁判所HP参照)

手続費用公証役場の手数料 1万1000円、
法務局に納める印紙代 2,600円
法務局への登記嘱託料 1,400円
書留郵便料 約540円
正本謄本の作成手数料 1枚250円×枚数
申立手数料と後見登記手数料 3,400円
送達・送付費用 3,270円
鑑定費用(必要と判断されることがある)10~20万円
医師による診断書の作成費用 数千円
住民票 数百円、戸籍抄本 数百円
後見監督人(後見人を監督する人)本人の判断能力が衰えた際に、任意後見人や親族等が申立て、家庭裁判所により選任される(必須)

家庭裁判所が必要と認めた場合に選任される

報酬本人と任意後見受任者との自由な契約のため、金額の制限はない。

任意後見監督人には、家庭裁判所の判断により、本人の財産から、報酬が支払われる。  

成年後見人の報酬の目安は、月額2万円
成年後見監督人(選任された場合)の報酬の目安は、月額1万円~3万円
いずれも、財産額によって変わる
東京家庭裁判所「成年後見人等の報酬額のめやす」2013.1参照)

※法定後見制度は、本人の判断能力の違いによって、「後見」・「保佐」・「補助」のどの制度を採用すべきか、家庭裁判所が判断します。
 この表では、法定後見制度については「後見」を例に説明しています。


本人が判断能力が低下する前に、自身の判断能力が低下した後のことを決めておける点で、任意後見制度は、本人の意思をより反映できるというメリットがあります。

しかし、本人の判断能力が低下してしまった後では、任意後見制度は利用できないので注意が必要です。

まとめ

この記事では、認知症と成年後見制度のことについて書きました。

ポイントをまとめると、次の通りです。

・2025年には、65歳以上の5人に1人が認知症を発症するといわれている。

・成年後見制度は、本人の財産を管理し、生活をサポートしてくれる制度。

・任意後見制度は、本人の意思をより反映できるというメリットがあるが、本人の判断能力が低下していない時でないと任意後見契約は結べない。


もしも認知症になったらどうするかについて、親が元気なうちに希望を聞いておいたり、子どもである自分は親に何をしてあげられるのかを考えてみることが重要ではないでしょうか。