子どもは親の銀行口座からお金を下ろしていいの?<生前・亡くなった後>

高齢の親が入院した。入院費を親の銀行口座から子どもの自分が下ろしてもいいの?

また、親が亡くなった後、親の銀行口座の管理はどうしたらいいの?

そのような疑問に、相続手続きのサポートをする行政書士の私がお答えします。

高齢の親が必要となる費用

親の費用

親は高齢になると、通院費・入院費・手術代など医療費がたくさん必要になる可能性が高まります。

そうした費用を子どもが立て替えることもあると思います。

しかし、立て替えること自体、そして、それを後日精算する手続きは、子どもの負担になります。

そのため、医療費や介護費など、親のための費用であることが明確なものは、できるだけ親のお金から支出するのがよいでしょう。

親のお金から支出し、親の財産額を明確にしておくことは、将来訪れる相続のことを考えても、とても大切なことです。


亡くなった後の葬儀代や埋葬費用なども、親のお金から支払える準備をしておくとよいでしょう。


親が元気なうちから、亡くなった後のお金や相続のことを考えるなんて不謹慎!と思われるでしょうか。

しかし、親が亡くなった後のたくさんの手続き―遺産分割、相続税、財産の名義変更、解約、各種支払など―について、親も子どもも、早いうちから準備をしておかないと、親が亡くなった後に本当に苦労します。


ここから、親の銀行口座からの預金(※)の引き出し方の注意点についてご説明します。

必要になった時のご参考にしてください。

※預金と貯金とを併せて「預貯金」と呼びますが、この記事では基本的には「預金」と呼んで説明します。

生前の親の銀行口座の取り扱い

親の通帳

親の口座から預金を引き出す

銀行は原則、預金者本人以外が口座から預金を引き出すことは認めていません。

しかし、入院していたり、家で療養していたりする親に代わって、子どもが親の銀行口座から預金を引き出すことは可能です。

ただし、親の指示や要望があること、つまり、入院している親本人の意思が確認できることが前提です。


そして親の預金を使った際は、領収書などを残して、何に使ったのかをきちんと記録しておくことが重要です。

そうすることで、引き出した子どもが自分自身のために使ったのではといった親族からの誤解や思わぬトラブルを防ぐことができます。

引き出す前に、他のきょうだいや親族など(以下、「他の相続人」といいます。)の了解を得ておくとさらによいでしょう。


親の預金の引き出し方について簡単に説明します。


ATMで引き出す場合

キャッシュカードの保管場所と暗証番号を親から聞いておけば引き出すことができます。

ただし、繰り返しになりますが、親の同意が必要です。

ちなみに、家族が代わりに持つことのできる「代理人カード」を銀行で作成しておけば、この代理人カードで親の口座から預金を引き出すことができるようになります。

(代理人カード作成手続きの詳細は各銀行にご確認ください)


窓口で引き出す場合

まとまった預金を銀行の窓口で引き出すことが必要になるときもあるかもしれません。

その場合は、「通帳」「印鑑」「委任状(親本人が作成)」「窓口に行く人の写真付き身分証明書」などを持参して、銀行窓口へ行きます。

親の意思が確認できない場合

親が認知症などになって、その意思が確認できない状態となった後は、子どもが親の口座から預金を引き出す行為は基本的には認められていません。

やむを得ず引き出してしまった場合は、「他の相続人の了解を得ていること」「親のための何に使ったのかを記録しておくこと」が必要です。


銀行口座の凍結

銀行は、口座の名義人が認知症の発症などにより、判断能力が著しく低下していることを知ったとき、その口座を凍結します。

詐欺や家族による使い込みなどから口座名義人ご本人の財産を守るために、銀行は預金を動かすことを認めなくなるのです。


成年後見制度

親が認知症などになって、全く意思表示が出来なくなった場合は、成年後見人をたてて、銀行口座などの財産管理を託すことになります。

認知症などになった後に立てる成年後見制度は、「法定後見」といい、裁判所が選任するため、家族を選任してもらいたくてもそのとおりに選任されるとは限りません。


一方、認知症になる前に成年後見人を立てることを「任意後見」といいます。

こちらは、認知症になる前に親本人が成年後見人を誰にするかを決めることができる制度です。

たとえば、子どもを成年後見人に指定しておけば、認知症になった後でその子どもが親の銀行口座等財産の管理を行うことができます。


財産管理等委任契約

成年後見人は、認知症等になって判断能力が低下した後で財産管理を開始します。

判断能力が低下する前から財産管理を誰か信頼できる人にまかせたい場合は、財産管理等委任契約を結びます。

子どもに管理を任せる契約とすることも可能です。


大切なのは、親が認知症などになる前から、対策を考えておくことです。

任意後見制度や財産管理等委任契約については、こちらの記事が参考になります。

または、法務省HP 成年後見制度

次に、亡くなった後の親の銀行口座の取り扱いについて説明します。

亡くなった親の銀行口座の取り扱い

銀行での手続いろいろ

銀行口座の凍結

銀行は、口座の名義人が亡くなったことを知ったとき、その口座を凍結します。

預金は故人の相続財産の対象となるので、銀行は、トラブルを避けるためにも、相続人による遺産分割が終わるまでは預金を引き継いだ本人以外が引き出せないようにするのです。


しかし、遺族が死亡届を役所に提出しても、役所から銀行に連絡はいきません。

よって、遺族が知らせるまで、銀行の口座は凍結されません。


それでは、銀行口座が凍結される前であれば、ATMなどで相続人の一人(子ども等)が親の預金を引き出していいのかというと、それは違います。

法律上も、預金は遺産分割が済むまで相続人全員のための共有財産になるため、相続人の一人が単独で引出すことはできません。

しかし、実際は、親が亡くなると、葬儀費用等、お金が必要になります。

子どもが費用を立て替えられない場合もあります。

そうした現実的な問題に対処するため、「預貯金の仮払い制度」が始まりました。

預貯金の仮払い制度

民法の改正により、2019年7月から「預貯金の仮払い制度」が設けられました。

この制度を利用すれば、相続人間で遺産分割が終わっていなくとも、故人の預貯金の一部を、相続人が一人で払い戻すことが可能となりました。


銀行での手続書類

・故人の「生まれてから亡くなるまでの戸籍謄本」または「法定相続情報一覧図

・相続人の身分証明書、印鑑証明書

・申請書ほか(各銀行に詳細を確認してください)


払い戻しができる上限額

亡くなった時の預貯金残高 × 3分の1 × その相続人の法定相続分

または

一つの金融機関あたり150万円まで


注意すること

1)遺産額が減る行為ですので、やはり他の相続人とのトラブルを避けるためにも、「他の相続人の了解を得ていること」「何に使ったのかを記録しておくこと」が重要です。

2)親が借金などの債務を抱えていた場合は、相続放棄をすれば、債務の返済義務がなくなります。

しかし、親の口座から下ろしたお金を相続人自身の生活費に使用した場合は、相続を単純承認したとみなされ、相続放棄ができなくなる可能性があります。

注意しよう

親の銀行口座の調べ方

ところで、子どもは、親が預金している全ての銀行口座を把握していないこともあると思います。

その際は、親の遺品から預金通帳やキャッシュカードを探すほかに、遺言やエンディングノートなどのメモ書きに口座の情報がないかも探します。

親宛の郵便物などに、金融機関からの封書等がある可能性もあります。

また、預金通帳やキャッシュカードが見つかった銀行で「全店照会」を依頼すると、同じ銀行の違う支店の口座まで調べてもらうこともできます。

銀行口座の解約

故人の預貯金を引き継ぐことになった相続人は、故人の銀行口座の解約手続きを行います。

残高がほとんどない場合は、口座を解約せずにそのままにする相続人の方もいるようですが、亡くなった方の口座ですので解約するのがいいでしょう。

まとめ

今回は、親の銀行口座の取り扱いについて、解説しました。

以下がポイントです。

・親が亡くなった後のたくさんの手続きのことについて、親も子どもも、早いうちから準備をしておかないと、親が亡くなった後に子どもが本当に苦労します。

・親の同意がなければ、子どもが親の銀行口座から預金を引き出すことは、原則認められていません。
 親が亡くなった後は、他の相続人の意思の確認が大切です。

・成年後見人や財産管理等委任契約、預貯金の仮払い制度など、親の銀行口座から預金を下ろすための正式な手続きについて理解して利用しましょう。


親が元気なうちに、生前/亡くなった後の親の財産の管理や分け方について、親と話しておけるとよいでしょう。

さらに、親に、遺言や財産目録などを用意しておいてもらうことで、残された家族は、預金を含む遺産全体の手続きがよりスムースに行うことができるようになります。

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