相続分のないことの証明書とか、特別受益証明書って何のこと?何に必要なの?
祖父が亡くなって、親族から自分に「相続分のないことの証明書にサインしてほしい」という連絡がきた。
特別受益証明書とも言うらしい。
遺産はいらないんだけど、書類の意味がわかってからサインしたい。
そのようなご要望に、相続手続きのサポートを行う行政書士の私がお応えします。
相続分のないことの証明書とは
早速ですが、相続分のないことの証明書とはどういうものかについて、ご説明します。
証明書に書く内容
相続分のないことの証明書は、特別受益証明書ともいいます。
証明書には、「被相続人の生前中に、すでに相続分以上の財産の贈与を受けていますので、相続する相続分の無いことを証明します」という内容を記述します。
下の書式は、特別受益証明書のものですが、相続分のないことの証明書も同じ内容の文面になります。
(法務局資料を参考に一部改変)
書かれている内容とは異なり、亡くなった被相続人の生前中に、相続分以上の財産の贈与を受けていない場合には、作成すべきでないでしょう。
また、相続分以上の財産の贈与を受けていたら必ずこの証明書を作成しなければいけないわけではありません。
作成の目的
相続人が複数いる場合で、相続人のうちの一人、または少数に遺産を相続させたいときに、その他の相続人から相続分のないことの証明書や特別受益証明書を作成してもらう方法を取ることがあります。
たとえば遺産が不動産であれば、この証明書を用意することで、相続人のうちの一人に遺産の不動産を相続させること(所有権移転登記)ができるようにもなります。
遺産分割協議や相続の放棄といった手間をかけずに、相続人に相続分を放棄してもらう方法です。
相続の放棄と相続分の放棄
「相続の放棄」と「相続分の放棄」は意味が異なりますので、次にこの2つの違いについて説明します。
相続の放棄とは
相続の放棄は、自分が初めから相続人でなかった状態にする方法です。
相続人が家庭裁判所に申請をして、認められて初めて、遺産のすべてを放棄した状態になります。
主に、亡くなった被相続人のマイナスの遺産(借金等)がプラスの遺産より多い場合に行われます。
相続の放棄をした相続人は、借金等を返済する義務がなくなります。
相続の放棄をした子や孫の借金等の返済義務もなくなります。
相続の放棄(相続放棄)については、こちらの記事も参照ください。
一方、相続分のないことの証明書や特別受益証明書を作成することは、相続の放棄ではなく、相続分の放棄になります。
相続分の放棄とは
相続分のないことの証明書や特別受益証明書を作成することは、相続分の放棄にあたります。
また、自分が遺産を相続しない内容の遺産分割協議書に署名捺印をすることも、相続分の放棄になります。
相続の放棄は相続が開始したことを知ったときから3か月以内でないとできない手続きですが、相続分の放棄はこのような期限がありませんので、相続の放棄ができなくなった時に相続分の放棄の方法をとることもあります。
証明書を作成するときの注意
亡くなった被相続人とはあまり面識がないからとか、相続手続きが面倒だからと、簡単に、相続分のないことの証明書や特別受益証明書にサインをしてしまうのは得策ではありません。
相続の放棄(家庭裁判所での手続)では亡くなった被相続人の借金等の返済義務がなくなりますが、相続分の放棄(家庭裁判所以外での手続)では、借金等の返済義務はなくなりません。
相続分の放棄をすることで、プラスの遺産を放棄して、マイナスの遺産だけ相続してしまう可能性もありますので、注意が必要です。
相続分の放棄をする前に、亡くなった被相続人にマイナスの遺産がなかったのかを確認しましょう。
まとめ
今回は、相続分のないことの証明書や特別受益証明書について書きました。
ポイントです。
・相続分のないことの証明書や特別受益証明書は、相続分を放棄することを表すための書類。
・亡くなった被相続人の生前中に相続分以上の財産の贈与を受けている人が、相続分を放棄してもよいと決めたときにこの証明書を作成する。
・相続の放棄(家庭裁判所での手続)は亡くなった被相続人の借金等の返済義務がなくなるが、相続分の放棄(家庭裁判所以外での手続)では、借金等の返済義務はなくならない点に注意すること。
相続分のないことの証明書や特別受益証明書に限らず、署名捺印する書類は、すべて、内容を良く理解してから、署名捺印するように心掛けましょう。