遺言書で指定しておくとよい遺言執行者って何をしてくれる人ですか

遺言書と遺言執行者

遺言書を作るなら遺言執行者について書いておくと良いと言われた。

でも、遺言執行者って、何をしてくれる人なの?

必ず遺言書に書いておかなければいけないの?

そのような疑問に、遺言書の作成サポートをする行政書士の私が説明します。

遺言執行者とその役割

遺言執行者とは

「遺言執行者」とは、民法に定められている、法的身分のある者です。

相続手続きを行うときに銀行等で「遺言執行者はいますか」と聞かれ、いる場合といない場合とで手続きが変わります。


遺言執行者は、遺言者が亡くなった後、遺言の内容を実行するために動いてくれる人です。

たとえば、遺言書に、「預貯金は○○に、自宅は□□に、株は△△に…」と書かれているとします。

亡くなった後で、銀行口座を解約したり、不動産の名義を変更したり、証券会社で手続きをしたり…といった手続きが必要になります。

遺言執行者は、これらの手続きをやってくれます。

遺言執行者のやることについて、もう少し詳しくみてみましょう。

遺言執行者の任務

遺言執行者には、遺言の内容を実現するために必要なすべての行為をする、権利と義務があります。

遺言執行者が行う主な任務について、順を追ってご説明します。


相続人調査

遺言者が亡くなったことを知ったら、遺言執行者は、全ての相続人に、遺言執行者に就任したことを通知します。

そのため、全ての相続人を把握するために、遺言者の出生から死亡までの戸籍、相続人の戸籍と住民票の写し等を確認します。

なお、相続手続きには、3か月以内に取得した戸籍等が必要になりますので、過去に取得していた場合は、市区町村の役所で取り直します。


相続財産の目録の作成

遺言書に書かれている財産の現在の状態(存否や価額の変動など)を調査したり、遺言書に書かれている以外の財産について調べます。

相続財産の目録を作成したら、相続人に渡します。


不動産等の名義変更や銀行口座の解約など

遺言執行者は、誰に譲るかが遺言書に書かれている特定の財産について、必要な手続きを行うことが可能です。

預貯金の払い戻し請求や解約についても、同様です。

遺言執行者の選任

遺言執行者の役割

遺言執行者は、未成年者や破産者以外、誰でもなることができます。

選任の仕方は、次の3通りがあります。

遺言執行者の選任方法

遺言書で指定する

相続人や親族、行政書士などの専門家を指定することができます。

遺言書で、以下のように記します。(例)

「遺言者は、本遺言の遺言執行者として、長男○○〇〇を指定する。」

「遺言者は、本遺言の遺言執行者として、下記の者を指定する。」(この下の行に、住所・職業・氏名・生年月日など、人物を特定できる情報を記します)


また、複数人の遺言執行者を指定しておくことができますので、たとえば、息子さんと専門家の2名を指定しておくことも可能です。

そして、専門家は息子さんをサポートする役割とすることができます。


なお、遺言執行者に指定された人は、辞退することが可能となっています。

そのため、遺言書で指定する前に、該当する人へ確認をしておくとよいでしょう。


指定してもらう人を遺言書に書く

遺言執行者を決めてもらう人を遺言書に書いておく方法です。

指定した遺言執行者が亡くなってしまう可能性もあるため、それに対処するのに有効な方法です。

遺言書で、以下のように記します。(例)

「遺言者は、この遺言の執行者の指定を、長男○○〇〇に委託する。」

「遺言者は、この遺言の執行者の指定を、下記の者に委託する。」(この下の行に、住所・職業・氏名・生年月日など、人物を特定できる情報を記します)


家庭裁判所に請求する

遺言執行者が遺言で指定されていないとき、又は亡くなってしまったときは、家庭裁判所は、相続人などの請求を受けて選任することができます。

報酬について

相続人を遺言執行者とした場合

報酬は、無料とするかまたは何かの遺産を譲るかなどするケースが多いようです。


専門家を遺言執行者とした場合

通常は報酬が必要ですので、依頼する際に確認してください。

遺産総額の何パーセント、最低額はいくらと設定をしているケースが多いようです。

遺言執行者の必要性

遺言執行者は必要なのか

ところで、遺言執行者は、かならず必要なものなのでしょうか。

民法には次のように書いてあります。

「遺言者は、遺言で、一人又は数人の遺言執行者を指定し、又はその指定を第三者に委託することができる。」

つまり、遺言執行者を設定することは、必須ではありません。

そのため、遺言執行者のことが書いていない遺言書が無効になるわけではありません。


遺言執行者が設定されない場合の相続手続きは、相続人の中から代表者を決め、その人が手続きを行ったり、専門家に手続きを依頼する手配をしたりします。


しかし、遺言執行者を設定しておく方がよいケースがあります。

設定したほうがいいケース

相続人が多い場合

相続人全員で書類作成をしなければいけない手続きがあっても、遺言執行者がいれば、遺言執行者ひとりで完結できる場合があります。

相続人が多い場合は、残された家族の負担を減らすために、遺言執行者を決めておくのがいいでしょう。


相続人が高齢な場合

例えば、現在夫婦共に高齢で、子どもがいない場合。

または、子どもはいるけれども、仕事が忙しく、相続手続きをする時間がなさそう。

そういった場合は、専門家を遺言執行者に加えるなどするとよいでしょう。


相続人がいない場合

例えば、配偶者がすでに亡くなっていて、子どもがいない方。

きょうだいや甥姪を遺言執行者に指定しておく、または、専門家を遺言執行者に指定しておいたほうがいいでしょう。

設定しなければいけないケース

以下の遺言は、遺言執行者でないとできないと法律で定められています。


認知

婚姻関係にない人との間に生まれた子供を自分の子供として届け出る認知は、遺言書に書くことでも可能です。

遺言執行者は、就任後10日以内に、所定の市区町村役場で必要な届出をします。


相続人の廃除

遺産を相続させたくない相続人がいる場合、遺言書にその人を相続人から廃除する意思表示をすることができます。

遺言執行者は、遺言が効力を生じた後、遅滞なく、その相続人の廃除を家庭裁判所に請求します。


相続人の廃除の取り消し

相続人の廃除の取り消しを遺言することができます。

遺言執行者は、遺言が効力を生じた後、遅滞なく、その相続人の廃除を家庭裁判所に請求します。


一般財団法人の設立

遺言で、一般財団法人を設立する意思を表示することができます。

遺言執行者は、遺言の効力が生じた後、遅滞なく、遺言で定めた事項を記載した定款を作成します。

遺言書と異なる相続は可能か

遺言執行者がいる場合には、相続人は、遺言の執行を妨げる行為をすることはできません。

よって、基本的には、遺言書と異なる相続はできません。

ただし、遺言執行者・相続人全員・受遺者全員の同意があるときは、遺言書と異なる相続をすることが可能です。

しかし、これら全員の同意を取るのは容易なことではないでしょう。

よって、遺言執行者を指定しておくことは、遺言書の内容を叶えやすくなる方法といえます。

まとめ

今回は、遺言執行者について、説明しました。

ポイントです。

・「遺言執行者」とは、指定されて就任し任務を開始するといった手順が民法に定められている、法的身分のある者です。

・遺言執行者には、遺言の内容を実現するために必要なすべての行為をおこなう権利と義務があります。

・遺言執行者を指定しておくことで、遺言書の内容がスムーズに実現しやすくなります。


ご不明な点は、行政書士などの専門家に聞いて、願いを叶える遺言書を作成しましょう。