遺言の内容を、遺言者が訂正したり変更したりする方法についての解説

遺言の取消しや修正について

遺言書は、何度でも作り直せるようだが、その方法や注意点は?

自筆証書遺言と公正証書遺言でやり方が違うと思うけど・・・?

そのような疑問に、終活サポートをおこなう行政書士の私がお答えします。

遺言の変更について

遺言の変更は、「遺言の撤回」という表現で、民法に定められています。

「遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができる。」(民法1022条)

遺言を作成した後で、家族の状況や財産の内容が大きく変わったり、心境が変わったりすることもあるでしょう。


では、遺言の訂正や撤回の方法について、まずは、自筆証書遺言から見ていきましょう。

自筆証書遺言の訂正・撤回

自筆証書遺言は、その名の通り、遺言する人が自筆で作成する遺言です。

いつでも、すぐに、訂正や撤回が可能な遺言の方式といえます。

自筆であること、特定できる氏名と年月日の記載があること、押印があることで、法的効力をもつ遺言になります。

財産目録は、パソコンなどで作成することができるようになりました(2019年1月13日から)。


自筆証書遺言は、遺言書自体に手を加えて、訂正することが可能です。
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遺言を訂正する方法

作成した遺言書に、加筆・修正・削除などをして、遺言の内容を訂正することができます。

遺言者が、訂正箇所を示し、訂正したことを記して署名し、訂正場所に押印をすることで、効力が生じます。


【遺言書の訂正方法】

・直す文字は線で消します。

・訂正内容の横に押印をします。

・訂正した行の左側(※)の余白に訂正内容を書き、遺言書が署名する。

 ※縦書のときは行の上の余白に。余白がなければ末尾に行を加えて訂正内容と署名を書きます。


このように、遺言書に変更を加えて訂正をすることは簡単にできます。

しかし、遺言書自体が見にくくなる、押印忘れや署名忘れがあれば法的に無効になってしまうというデメリットがあります。

そのため、次の方法が推奨されます。

撤回を明記して別の遺言を作成する

新しく作成する遺言書の冒頭に次のように記し、前の遺言を撤回することを明らかに示す方法です。

「遺言者は、令和〇年〇月〇日に作成した遺言書の遺言内容を全て撤回し、以下の通り改めて遺言する。」

混乱の少ない、より確実な方法といえるでしょう。


なお、撤回の撤回、つまり、第1の遺言を撤回した第2の遺言を撤回しても、原則として第1の遺言の効力は復活しません。

遺言書保管制度を利用している場合

自筆証書遺言書を法務局で保管する制度を利用している方もいると思います。

保管した遺言書の内容を変更したい場合に、法務局が推奨しているのは次の手順です(参照:法務局資料)。

「遺言書の保管の申請の撤回」→「遺言書の返還」→「遺言書の内容の変更」→「再度、保管の申請」(手数料必要)


「遺言書の保管の申請の撤回」では、遺言書自体の効力は撤回されませんので、注意が必要です。

なお、保管した遺言書を返還してもらわないまま、新しい遺言書を法務局に保管することも可能とのことです。

公正証書遺言の訂正・撤回

公正証書遺言は、証人2名の立ち合いのもと、遺言を残す人(本人)が公証人に遺言の内容を口頭で話し、公証人に遺言を作成してもらうものです。

法律の専門家である公証人が、遺言の形式や内容を確認・検討して作成してくれるので、遺言者の意志を実現しやすい遺言です。

また、遺言の原本は公証役場が保管しているため、遺言者が望まない破棄や改ざんを防ぐことができます。


遺言者の手元にある正本や謄本を(上述した自筆証書遺言のように)訂正しても、その訂正した内容は効力をもちません。

公正証書遺言の内容を撤回したいときは、次のいずれかの方法になります。

1)新たに公正証書遺言を作成する

2)新たに自筆証書遺言を作成する

公正証書遺言と自筆証書遺言とで、どちらが優先されるという優劣はありません。

作成の日付が新しい方の遺言の内容が、優先されます。

撤回したとみなされる方法

撤回とみなされます

最後に、遺言を「訂正します」「撤回します」と遺言書等に明記しなくとも、遺言の内容が撤回とみなされる方法について、ご説明します。

撤回の意志があって行う行動でしたら問題ありませんが、そうでない場合には、注意が必要です。

亡くなった後、相続が始まったときに、相続人の間で混乱が起こる可能性があります。

前の遺言はそのままに別の遺言を作成する

「前の遺言書は撤回します」と書かずに、新たに別の遺言書を作成する方法です。

前の遺言と後の遺言の内容が抵触するとき(両立しないとき)は、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなされます。(民法1023条1項)

「その抵触する部分について」のみの撤回なので、必ずしも前の遺言がまるごと撤回されるのではなく、前の遺言の中で、後の遺言に抵触しない部分があれば、その内容は有効になる可能性があります。

遺産の処分その他の法律行為をする

遺言者が、遺言書の内容が実現できなくなるような遺産の処分その他の法律行為をした場合は、その遺言の抵触する部分を撤回したものとみなされます。

例えば「長男に遺言者名義の株式を相続させる。」と遺言した後で、すべての株式を売却した場合などです。


遺言者が故意に遺贈の目的物を破棄したときも、その遺言の抵触する部分の内容を撤回したものとみなされます。

(遺贈についてはこちらの記事が参考になります)

遺言書を破棄する

自筆証書遺言の遺言者が、故意に遺言書を破棄したときは、遺言を撤回したものとみなされます。

公正証書遺言の場合は、原本は公証役場で保管されているため、遺言者の手元にある正本や謄本をいくら破棄しても撤回の効果は発生しません。

まとめ

今回は、遺言の訂正や撤回について、書きました。

ポイントです。

・自筆証書遺言は、遺言書そのものに、加筆・修正・削除などをして、遺言の内容を訂正することができます。

・新しく作成する遺言書の冒頭に、前の遺言を撤回することを明示する方法が、混乱の少ない遺言の撤回方法です。

・遺言を作成した後で、遺言者が、新たな遺言を作成したり、遺産を処分したりする行為は、遺言の一部または全部を撤回したものとみなされます。


遺言者は、遺言の内容を訂正したり変更したりすることができます。

しかし、訂正や変更を繰り返して、混乱を招かないよう、慎重に行うのがよいでしょう。