新しい在留資格「特定技能」って、外国人を雇用する側にどんなメリットがあるの?

外国人の在留資格に「特定技能」が新設されましたが、どんなメリットがあるのか、これまでの在留資格と何が違うのかよく分からない事業主の方もいらっしゃると思います。

この記事を読むと、「特定技能」の在留資格とは何か、外国人を雇用する側にどんなメリットがあるのかが分かります。

入管(出入国在留管理庁)の申請取次行政書士の私がご説明します。

外国人の雇用と「特定技能」について

昨年(2019年)4月から外国人の在留資格に「特定技能」が加わりました。

これは、日本国内の深刻な人手不足を受けて、労働力を補うことを目的として、即戦力となる外国人を雇用するために設けられた制度です。

法務省の発表によると、すでに約4,000人が特定技能1号を取得しています(2020年3月末現在)。

分野別では、飲食料品製造業への就労が全体の35%を占め、次いで農業17%、素形材産業11%となっています。

国別では、ベトナムが全体の58%、これにインドネシア11%、中国8%と続きます。

日本政府は、5年間の受け入れ見込み数は約34万5千人(建設分野4万人、外食業5.3万人、介護分野6万人など)としています(出入国在留管理庁資料)。


外国人の労働力といえば技能実習生がいるのでは?と思われたでしょうか。

現実的には技能実習生の労働力は重要な役割を担っていて、外国人労働者の在留資格別の内訳からみても、「身分に基づく在留資格」(永住者や日本人の配偶者等)の32.1%(約53万人)に次いで、「技能実習」は23.1%(約38万人)ととても多くの割合、人数となっています(2019年10月厚労省資料)。

しかし、技能実習制度の目的は、労働力の確保ではなく、国際貢献です。

技能実習生には、日本の技能・技術・知識を習得してもらい、帰国後に本国でその技能等を活用してもらうという趣旨です。


そのため、日本国内の労働力を補うことを目的として新たに作られた在留資格、特定技能にいま期待が寄せられているのです。

特定技能とは

まず、「技能実習」と「特定技能」の違いについてご説明します。
(「特定技能」には1号と2号が、「技能実習」には1号・2号・3号の区分があります。)

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技能実習と特定技能の違い

 技能実習 ※特定技能
目的日本の技術を用いて、開発途上国等の経済発展のための「人づくり」に協力すること深刻な人手不足に対応するため、一定の専門性・技能を有し即戦力となる外国人材を受け入れること
活動内容非専門的・非技術的分野相当程度の知識又は経験を必要とする技能を要する業務に従事する
専門的・技術的分野
職種82職種146作業
外食業含まず
1号:特定産業分野 14分野 介護、ビルクリーニング、素形材産業、産業機械製造業、電気・電子情報関連産業、建設、造船・舶用工業、自動車整備、航空、宿泊、農業、漁業、飲食料品製造業、外食業
2号:建設、造船・舶用工業
入国時の試験なし (介護職種のみ入国時N4レベルの日本語能力要件あり)技能水準、日本語能力水準を試験等で確認(技能実習2号を良好に修了した者は試験等免除)
在留期間1号:1年以内
2号:2年以内
3号:2年以内
(合計で最長5年)
1号:通算5年
2号:制限なし
家族の帯同不可1号:基本的に不可
2号:要件を満たせば可能(子、配偶者)
受入れ機関の人数枠あり(十分な実習をさせるため)なし(介護分野、建設分野を除く)
外国人と受入れ機関のマッチング通常、相手国の送出機関と事業協同組合(管理団体)を通して行われる外国人労働者と受入れ機関との直接の契約が可能
外国人労働者の指導や支援事業者に、技能実習責任者、技能実習指導員、生活指導員をおいて行う。1号:必要。受入れ機関又は登録支援機関が行う。
2号:不要
転籍・転職原則不可可能
※ 全体の約9割である団体管理型について記しています。                           

次で、「技能実習」との違いを中心に、「特定技能」の外国人を雇用することのメリットとデメリットをみてみましょう。

特定技能のメリット

  • 在留資格の目的が「人手不足を補うこと」であるので、人数に制限なく採用することができます。
    (国際協力を目的とする「技能実習」は受入れ数に上限があります)
    なお、日本人と同等またはそれ以上の給与の支払いが必要であることは、「技能実習」と同様です(法務省・厚労省資料p.11より)。
  • 外国人労働者との直接契約が可能なため、関係機関が少なく、よりシンプルな採用活動が可能です。
    (「技能実習」は外国の送出機関や日本の監理団体を通す必要があります)
  • 必要な技能試験や日本語試験をパスしている在留資格なので、即戦力となります。
    (「技能実習」は試験なしで受入れ可能な分、受け入れ後の言語サポートが多く必要です)
  • 「特定技能」の職種には外食業が入っているため、飲食店が外国人をフルタイムで雇用しやすくなりました。
    (「技能実習」の対象職種に外食業は入っていません)
  • 「技能実習」2号(計3年)を良好に終えた技能実習生は、「特定技能」1号へと在留資格を変更できますので、さらに最長5年の滞在が可能となります。
    また、職種は限られますが、その後「特定技能」2号の在留資格が取得できれば、在留期間の制限はなくなり、いずれ永住権を取得することが可能となり、受入れ側の雇用の安定につながります。

特定技能のデメリット

  • 「特定技能」の制度が開始されてまだ2年目と歴史が浅いため、制度の現実的な問題点を把握しきれていません。
    (技能実習の制度は1993年から開始され、課題に対応するための制度の更新が行われてきました)
  • 転職ができるので、育てても他社に転職される可能性があります。
    (「技能実習」は転職は原則できません)
  • 在留期間は「特定技能」2号には制限はありませんが、「特定技能」1号は、最長通算5年までのため、長期間の雇用ができません。
    (最長通算5年の在留期間は「技能実習」と同様です)
  • 来日前および雇用期間中に渡航や生活上の支援を行う必要があります。
    (「技能実習」も入国後の適切な宿泊施設の確保、講習の準備が必要です。)


メリット・デメリットそれぞれを理解した上で、どのような在留資格をもつ外国人を雇用するのがいいのかについて考えましょう。

なお、「特定技能」の外国人への支援については、登録支援機関等に委ねるやり方があります。

特定技能の外国人の支援について

登録支援機関への委託

受入れ機関(事業主)は、特定技能1号の外国人に対して、職業生活上、日常生活上又は社会生活上の支援の実施に関する支援計画を作成し、これに基づき支援を行わなければなりません。

入国前は事前ガイダンスを行い、入国後は日本語学習の機会を提供したり、生活上の相談にのったり、定期的に面談を行ったりすることが、受け入れ機関の義務となります。

受け入れ機関は、自社でこの体制を用意することも可能ですが、登録支援機関に委託することもできます。

登録支援機関は、出入国在留管理庁長官の登録を受けた機関で、登録支援機関登録簿に登録され、出入国在留管理庁ホームページに掲載されています。

申請取次行政書士への委託

「特定技能」の在留資格の申請書類は、在留資格認定証明書交付申請書のほかに、雇用条件書(写)、事前ガイダンスの確認書、支払費用の同意書及び費用明細書といったように種類が沢山あります。

申請人が理解できる言語での記載がある書類も複数求められており(法務省HP)、書類一式の用意には時間と労力がかかります。

申請しても在留資格がとれなかったために雇用が遅れるといったリスクもあります。

こうした労力やリスクを回避するために、在留資格(ビザ)の業務に詳しく、外国人労働者本人に代わって申請のできる「申請取次行政書士」(出入国に関する一定の研修を終えた行政書士)に代理申請を委託することができます。

※登録支援機関の登録があるだけでは、在留資格の代理申請を有償で行うことはできません。

まとめ

この記事では、在留資格「特定技能」とは何か、また、そのメリット・デメリットについて書きました。
ポイントをまとめると、次の通りです。

・「特定技能」は、国内の労働力不足を補う目的で設けられた制度。

・「特定技能」のメリット・デメリットについて考慮して採用したほうがよい。

・外国人労働者への支援には、登録支援機関や申請取次行政書士への委託が可能。


労働力の不足、労働力の高齢化は、国内の多くの企業が抱えている問題です。

解決策の一つとして、外国人労働者雇用の制度上の整備が進んでいます。

制度を活用する場合は、問題点に注意しながらも、サポート機関等の協力を得ながら、社会全体での受入れを目指してはいかがでしょうか。